いぬとさんぽ

本島ヒデオと犬の日々

その日

よし、吠えない。

いい子だ。

 

その日、妻と一緒に帰ってきたのは夜7時。

すっかり季節は秋となり辺りはもう真っ暗だ。

 

暗い家の庭で留守番をしているのはとても寂しいことだろう。

いつもなら車のヘッドライトに照らされた瞬間に吠え出すのだが、その日は吠えなかった。

 

よし、えらいぞ!

ラオ!

 

夕方の散歩は、3軒となりの奥さんに行ってもらった日だったので、散歩に行きたい欲はなかったのだろう。

 

この3軒となりの奥さん、仮にAさんといたしましょうか。

Aさんは動物好きで、ラオを拾ってきた時から時々散歩に連れて行ってくれていた。

 

今や、夕方の散歩の半分くらいはAさんがしてくれている。

平日はどうしても仕事で帰りが遅くなってしまうので本当に助かっている。

 

その日もAさんが散歩してくれていた。だから吠えなかったのだろう。

 

動物だから仕方ないことではあるのだけれど、やはり無駄に吠えることはやめてほしい。

ご近所に4軒の家があるので、あまりにも無駄に吠えることは近所迷惑になってしまう。

 

吠えるタイミングはだいたい1日2回。

朝5時の散歩に行くタイミングと、仕事から帰ってきた夕方のタイミングだ。

 

その度に、「ダメ!」としつけをしていたが、そう簡単には分かってくれない。

 

だけど、その日は吠えなかった。

やはり、しつけをすれば犬も成長するのだろう。

 

よし、えらいぞ!

ラオ!

 

車から降り、ラオの横を通るが、やはり吠えない。

 

本当におりこうさんだ。

 

飼い主には吠えない。

知らない人には吠える。

 

これが理想の番犬だ。

「立派な番犬に成長したな。」と感心しながら家に入り、電気をつけた。

 

このタイミングでもよく吠える事がある。

 

だけど、その日は吠えなかった。

 

よし、えらいぞ!

ラ・・・

 

・・・違う。

 

なんか違う。

 

吠えなさすぎだ。

 

というか、吠える吠えない以前にまったく動かない。

伏せたまま、まったく動かない。

 

外に出て呼んでもまったく近づいてこないし、こっちを見ようともしない。

 

首輪を引っぱり立ち上がらせてみるけど、すぐに伏せてしまう。

 

おかしい。

何かがおかしい。

 

試しに妻がおやつをあげてみた。

いつもなら興奮して暴れまくるのだが、全くテンションが上がらない。

一応食べたけど、元気がまったくない。

 

おかしい。

やっぱりおかしい。

 

思えば伏せてばかりいる。

いつもなら近づいてきておすわりするはずなのに・・・。

 

ん?

そういえば、おすわりをしない。

 

さっきから一度もおすわりをしていない。

 

ラオは拾ってきたときからおすわりだけは得意だった。

何も言ってもないのに勝手におすわりしてしまうほどだった。

 

そんなラオがおすわりをしない。

 

おかしい。

絶対におかしい。

 

僕ら夫婦は事の重大さにやっと気づき、急に慌てはじめた。

 

妻は夜間にやっている動物病院を検索し始め、

僕は「犬 おすわりしなくなる なぜ?」で検索をし始めた。

 

その結果、夜間にやっている動物病院は近所にはないという事と、少し遠くにあったとしても夜間救急のため診察代金が高額である事が分かった。

 

そして、今までおすわりできていた犬が急におすわりしなくなるのは、肛門が何らかの原因で痛くなっている可能性があるらしいという事が分かった。

 

そもそも、いつからこうなったのか?

夕方の散歩のときは元気だったのだろうか?

 

夕方の散歩に行ってくれたAさんにLINEで聞いてみた。

 

「いつも通り元気だったよ〜」

と返信が来た。

 

夕方の散歩はおそらく今から1時間前くらい。

そんな短時間で、こんなにも元気なくなってしまうことがあるのだろうか。

その1時間のうちに、肛門にいったい何が起こったのだろうか?

 

どうしよう・・・。

 

やはり動物病院に連れて行ったほうがいいのだろうか?

 

どうすればいい・・・。

 

・・・

 

んー、よし!

動物病院行こう!

 

と思ったそのとき、庭の向こうに何やら人影が現れた。

 

ん?

・・・Aさんだ。

 

Aさんが心配して見に来てくれたのだ。

 

その瞬間だった。

 

今までぐったりと伏せていたラオが急に立ち上がったのだ。

そして急いでAさんのもとに近寄り、しっぽを振って、しまいにはおすわりをした。

 

・・・

 

えーーーーーーーーーーーー!!!

 

おいおい、嘘だろ。

 

Aさんに「あれ??いやいや、さっきまで全然元気なかったんですよ!本当なんですよ!」と必死に伝えたが、ラオはもうすっかり元気になり、いつものラオに戻っていた。

 

そういえば、さっきネットで検索したときに、“犬にも反抗期がある”という記事をちらっと見たのを思い出した。

今までできていた事をしなくなったときは、飼い主に対して反抗している可能性があると書いてあった。

 

「全然家に帰ってこないこんな飼い主よりも、散歩に連れて行ってくれるAさんのほうが好きだ!」

 

という意味だったのだろうか・・・。

 

妻が「なんか、フラれた気分・・・」とつぶやいた。

 

最近は僕一人で散歩に行っていました。

妻はその事も引っかかっていたようで、「明日からまた一緒に散歩行こう。」と言いました。

 

結局、なんだったのだろう。

 

実際、肛門が痛くなることはあるそうなので、引き続き肛門には注意していきたいと思う。

 

そして、今までたくさんブログを書いてきたけど、こんなにも「肛門」という字を打ち込んだのは初めてだ。

 

そういえば、庭にAさんが現れ、ラオが近寄って行ったあの瞬間、Aさんがまるで“水戸黄門”のように見えた。

 

という文章は、ここではまったく必要のない文章でした。

 

では、また。